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蕎麦屋をさがして

さっきも通った道だな、と見覚えのある家の構えで気がついた。
住宅街の細道をあっちからこっち、こっちからあっちへと行ったり来たり。
友人から教えてもらった蕎麦屋がこの辺にあるのだが、見つからない。
以前に一度探して見つからなかったので、あきらめていたのだけれど…。
二、三日前雑誌で紹介されているのを読んだら、俄然見つけたくなってきた。
この前は、昼休みだったので、午後の仕事に間に合うようにあわてていたこともある。
今日なら時間をかけて探すことができると、勢い込んできたのだったが。

さっきから同じところをくるくる回っている。まるで狐に化かされたような気がしてきた。
見かねたのか、妻が車を降りて、通りがかりの人に尋ねてきた。
「そこの二つ目の角を入って、次は左に折れて、その次を右にいったところ。」
教えられたように行ってみてもさっき通ったところに行き当たる。
邪魔にならないところに車をとめ、もう一度、今度は自転車の人に訊いてみた。
「スーパー・マーケットの裏あたりにあったはずだけど、今日は閉まってるのかな。」
との返事である。そこなら通ってきたはずだけど、と首をひねりながらも再度行ってみた。

すると、柿渋色の暖簾が掛かっているではないか。大きな一枚板に店名も書かれている。
どうして、最初にここを通った時、これが目に入らなかったのか。
「十二時にならないと、暖簾を出さないとか?」と、妻が自信なげにつぶやいた。
でも、看板までは外さないだろう。店の前に一台白いクラウンがとまっていた。
その無造作な停め方が、店の客というのではなく、住人のようであったためかもしれない。
ブロック塀が長く続いていて、向かいはスーパーの裏手という地味な場所のせいもある。

無理してやっと三台分のスペースしかないので、車はスーパーの駐車場に停めた。
食事の後そのスーパーで、夕飯の買い物をする予定だからいいだろう。
店は新しかった。畳の部屋に座る。妻は天ざる、私は鴨ざる蕎麦を注文した。
あちこちに置かれた壺や古道具がそれらしい雰囲気を盛り上げている。

小盛りのそばが二段のせいろにのって出てくる。せいろ二枚で一人前くらいの量。
蕎麦は細めに切られ、一本の長さも短めだ。まずは何もつけず蕎麦だけ食べてみる。
こしはあるが、特にこれと言った味ではない。つゆに浸けて食べてみると、醤油辛い。
山葵は蕎麦にじかにつけていると最後までもたない量なので、つゆに入れた。

鴨は、別の皿にローストされた薄切り鴨肉が五枚、上に白髪葱を背負って供される。
切り方が薄いこともあり淡泊な味だ。鴨は、もっとしっかりした味わいであってほしい。
そば打ち用の部屋がガラス越しに見えている。どうやら手打ちが売りのようだ。
蕎麦湯もいただいたが、もとのつゆにダシがきいていないのでもう一つ物足りない。

年齢のせいか、昼は蕎麦や饂飩が胃にやさしく感じられる。
行きつけの蕎麦屋を求めて、市内を探し歩いているのだが、どこもどんぐりの背比べ。
松阪の悠庵が、今のところいちばんのお気に入りだが、なにしろ山の中である。
店を閉めていることもあって要予約だし、思いついた時に、食べに行ける場所ではない。
ジャズが流れていたり、アンティークが飾ってあったりと、雰囲気作りに凝る必要はない。
もっぱら普通の蕎麦を、それなりに美味しく食べさせる店だったらそれでいい。
思い立ったら歩いていける、そんな蕎麦屋に出会いたいと思う今日この頃である。
by abraxasm | 2009-08-21 14:39 | 日記

覚え書き


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