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ナツアカネ

仕事で二か月ばかり新潟に行っていた八べぇさんが帰ってきたという連絡が入った。
温泉に笹団子と新潟生活を謳歌しているとばかり思っていたが、ネット上の情報と本音とには差があったようだ。いわゆる食道楽で、食べるものについては一言ある人なのだが、
あちらのラーメンの味に馴染めなかったらしい。なんでもダシが利きすぎているというのだ。
土地土地によって味付けがちがうのは仕方がないこと。米どころだけにご飯は美味しかったというから、それでよしとしなければなるまい。

それで、こちらの味に飢えているとのこと。さっそくなじみの鰻屋で旧交を温めることにした。
得難いキャラクターの人物なので、帰りを待ちわびていた者は多い。
とはいえ、急に集まろうと言っても来られる者はしれている。
いつもの大型スーパーで待ち合わせ、近くにある鰻屋へと向かった。

知る人ぞ知るという店で、前にある釣り堀とあわせていつも人が絶えないが、
この日は台風の余波もあり、海に近い店はわりとひっそりとしていた。
1400円の梅定食を注文し、新潟の土産話に聞き入った。
サッカーのサポーターの話や、スーパーの多さ。なかなか面白い情報ばかりだが、中でも、
日本海に沿って走る「笹川流れ」という道の話に心が動いた。
一度、日本海に沈む夕陽を浴びて走ってみたいと思うことしきり。

さて、鰻だが、なぜか伊勢には鰻屋と寿司屋が多い。参宮の影響があるのかどうか知らない。それだけに、店によってそれぞれこだわりを持っている。特にタレの味がちがうようだ。
この店のタレは甘辛くてほどよい感じ。むしろこだわりは炭火焼きの皮の焦げ具合か。
パリッとした仕上がりは、好みにもよろうが、好ましく感じる向きも多いはず。

さて、前に釣り堀を備えたこの店の周りは、蘆の茂る湿地帯。そのせいか、雲が割れて
青空の見えてきた空一杯にナツアカネが群れていた。
子どもの頃、「チンモク」という、両端に錘をつけた糸を空中に飛ばし、オニヤンマやギンヤンマを捕まえた話に花が咲いた。片手で錘の端を持ち、もう一方の人差し指で糸の中央を空に向かってはじくと、蜻蛉が餌だと思ってよってくるところに、糸が巻き付く仕掛けだ。

あの頃は、ギンヤンマもオニヤンマもほんとうに群れて飛んでいた。
昔、この国は秋津州(アキツシマ)と呼ばれていた。アキツとは蜻蛉のことである。
少し前までは、古名がしのばれる自然環境を残していたのに、今では昔を偲ぶよすがもない。台風の去った後、空を飛ぶナツアカネの群れを見て、少しさびしくなった。
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by abraxasm | 2007-07-16 09:57 | 日記

御前酒

数日前、さるところから美作の銘酒をいただいた。
さっそく賞味したいところだが、純米吟醸、大吟醸という酒は、酒肴を選ぶ。
あまり味の濃い肴や油濃いものは酒の味をわからなくさせてしまうからだ。
妻が選んだのは鮎の塩焼きだった。

水質のきれいさでは全国一の折り紙付きの宮川で捕れた天然物である。
七輪に炭をおこして縁側で焼きたいところだが、用意がない。グリルで、じっくり焼いた。
パリッと乾いた薄皮にうっすら焦げ目がついたあたりで取り出し、箸をあてる。
皮の裂け目から湯気が上がって、柔らかな白い身が皿にこぼれた。

箸でそっと口に運ぶと、鮎ならではの香気が口中に広がる。
白磁のぐい呑みに頂き物の酒を注ぐ。吟醸酒特有の果実に似た薫りが鼻腔をくすぐる。
さらりとした飲み口は予想どおり。鮎の塩気が上質な甘さを引き立てている。
しかしそれにも増して味わい深かったのが、はらわたとのコラボレーションである。

だいたい、鮎の塩焼きでいちばん旨いのが、このはらわたというところ。
なんでも、水苔を餌とする鮎の薫りがもっとも濃厚に凝縮されているらしい。
ほろにがい味を美味しくと感じるには、それなりの歳にならないといけない。
しかし、苦みは苦みである。それをさらっときれいなものに変えてくれるのが旨い酒だ。

美作は、かつて訪れたことがある。
杯を重ねながら、家族四人で旅行した時のことを思い返していた。
昔ながらの景観が好ましい城下町や長閑な田園風景が鮮やかに甦ってきた。
静かな雨の音を聞きながら、遠来の酒を愉しんだ宵であった。
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by abraxasm | 2007-07-14 12:02 | 日記

覚え書き


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